2009.12.16
「天守物語」
初めて特殊メイクを全面的に受け持つ事になった作品が、泉鏡花原作、既に舞台で同戯曲を上演されていた坂東玉三郎さん監督、主演の映画「天守物語」です。
仕事を始めて2年、既にいくつかの特殊メイク、特殊造型会社で経験を積み、仕事が無い時も個人作品を沢山作りまくって技術的な自信が大分着いて来た26才の春、前述の造型会社アップアートで、社長の上松盛明さんから、玉三郎さんの老人メイクがあるから担当してみないかとお声をかけて頂きました。
アップアートはこの映画で、造型関係はもちろん、大掛かりな操演など、美術の多くを受け持つ事に
なったのですが、その中で唯一専門外だったのが特殊メイクでした。
「天守物語」は白鷺城に住む妖怪たちの話で、その頭(かしら)、富姫を演じる玉三郎さんは、同時に「舌長姥」という、舞台版では樹木希林さんが演じられた、文字通り舌が伸びる老婆の役も、映画でやられる事になったのです。姥が台詞を喋ったり、アップになったりするところは玉三郎さんご本人が、富姫がメインで映る時は、同じ門下の坂東守若さんが替わりに姥のメイクをして出演されました。
元々特殊メイク自体に不安を感じられていた玉三郎さんは、粘土原型の段階からかなり細かく指示を出されました。しかしテストメイクを施し「これはいける」と確信されると、未経験だったコンタクトレンズの装着を自ら提案されたり、数時間かかるメイクアップも非常に協力的に、楽しみながら挑まれていました。
チェックで修正を加える梅沢 社内でのテストメイク
亀の城の主・武田衛門之助(隆大介)の生首を、姥が舌を伸ばして舐めるというちょっとグロテスクなシーンでは、玉さんご本人がシリコーン製の舌をくわえて演じられる部分と、メカニカル製のダミー人形を使った部分とがありました。ダミーを使ったカットでは、生首を持つ手を左右それぞれ別々の人間が担当し、姥の頭を動かす人、後頭部に開いた穴から長い舌を生首に向かって送り出す人、ワイヤーで表情を動かす人と、総勢7人程の協力体制で操演しました。
ワイヤーが仕込まれたダミー 皮膚を張り合わせる 完成したメカニカルダミー
生首を持つ人が腕を通す為の輪が見える
緊張も失敗も沢山し、反省点が山程あった仕事ですが、同時に「こんなに楽しい仕事があるだろうか」と強く感じさせてくれた数少ない作品でもあります。
ちなみにエンドクレジットでは、玉三郎さんの意向により、「特殊メイク」ではなく「特殊美粧」として表記されております。
これも後にも先にも無い事です。
(c)松竹株式会社
坂東玉三郎さん演じる舌長姥
2009.12.4
アップアートでのお仕事